EV車等の火災発生の可能性について

※EV車等:EV車、HEV車、PHEV車、各種ハイブリッド車、電動バイク、電動ゴルフカート等を含む。

排出ガス削減へ向けて、世界中の車メーカーが従来のICE車(インターナル・コンバッション・エンジン/ガソリンやディーゼル車のこと)から、電気自動車ヘ猛スピードでシフトしているが、今、世界の消防で対応に困っているのが、これらに搭載されている数千個のリチウムイオン電池火災である。

EV車等のバッテリーパックに火がついて熱暴走が始まると、火は10分も経たずに車体下面からホイールアーチのプラスチック外装、そして燃えやすいケーブルや他の箇所へと広がり、15分もすれば隣の車両や建物などにも延焼する可能性が高まることが分かった。

また、リチウムイオン電池(LiB)はLiBは、主に正極材と負極材、絶縁体、電解液の4つの部材で構成されており、EV車やハイブリッド車火災が発生した場合、電解液(ヘキサフルオロリン酸リチウム(フッ素化合物)と数種類の引火性有機溶剤)が燃焼することで、吸入すると生命に危険なフッ化水素ガスが大量に発生するため、長時間の活動を先読みして、大量の空気呼吸器の予備ボンベが必要となった。

・大きな問題は、リチウムイオン電池の主成分は液体の有機電解質であり、電池コンパートメントは数千個のセルが密集しており、プラスチックの内装で覆われているため、冷却消火のための注水が肝心な燃焼部分に届かず、消火が非常に困難であること。

・コンパートメントが燃焼すると数千個(平均約7000個)のセルが燃えながらロケットのように四方八方に飛び散るため、近くの建物やすべての可燃物など、複雑多数に飛び火する可能性も高くなるため、指令受信時から、野次馬、公共交通機関などへの二次被害を予防することを具体的に行うこと。

・メーカー毎にセルのコンパートメントの構成が異なり、電池の適切な動作温度を維持する必要があるため、綿密に制御されたバッテリーマネジメントシステムによって、熱暴走による過熱等を生じないようにを保っているが、火災によって制御不能となるため

2、自然災害発生後のEV車の火災リスク
例えば、台風や高潮、津波などにより道路や駐車場が浸水し、電気自動車が水没した場合、徐々に自己発熱を引き起こし、時限爆弾状態になる可能性が高いため、自宅内の車庫には停めずに周囲に車がない空き地や広いエリアに駐車して冷やし続ける必要がある。

海水に没して動かなくなった電気自動車を牽引などのロードサービス中に牽引車両上で発火した事例もあるため、トンネル内で発火する場合も考え、移動中に発火することを前提に完全に冷えてから安全な場所へ移動すること。

※リチウムイオン電池は、一度、高温下にさらされると、内部のガスケットの溶融等電池内部状態が不安定になることから、消火した後も適切に温度を下げる為の措置として、最低一時間以上は再燃防止のための監視と熱画像カメラによる確認が必要となる。(消火後の電池温度約190℃) 

※津波によるEV車の海水没や台風時の高潮による塩害や大量の塩を含んだ潮風により、そのときの風力によっては、海から10数キロ離れた場所でも風が塩を運ぶため、塩害が生じる。

■↓電気自動車の火災

海運事業者向け概説

https://britanniapandi.com/wp-content/uploads/2021/09/Britannia-Loss-Prevention-Insight-Electric-Vehicle-Fires-08-21-Japanese.pdf

上記映像から、下記の消防活動課題が見受けられる。

・ガソリン車の火災より高温で、より長く燃え続ける。

・消火に大量の水を必要とする。

・フッ酸など、有毒ガスを発生する。

・燃えた車両の下の道路を溶かした。

・車の外殻は本当に何も残っていなかった。


以下、ニュース報道記事抜粋:

今後、数年でEVの販売台数が飛躍的に伸びることが予想される中、消防関係者の間ではEV火災への対処が懸念されている。

特に懸念されるのは、塩水が浸入したEVである。NHTSAによると、バッテリーやバッテリー部品に残留した塩分が導電性の「ブリッジ」を形成し、バッテリーのショートや自己発熱を引き起こし、火災につながる可能性があることがわかる。

損傷したバッテリーが発火するまでの期間は、数日から数週間と大きく異なることが観察されている。

例えば、2022年9月にフロリダ州で発生したハリケーン「イアン」に伴う高潮では、多くの車両が少なくとも部分的に塩水に浸かった。その後数週間のうちに、コリアー郡とリー郡で少なくとも12件のEV火災が報告された。サニベル島での1件は、家屋2棟を焼失させた。(参照:ハリケーン・イサイアス、暴風雨による火災の安全性を示す理由)

●塩水で浸水したEVのためのガイダンス
NHTSAは、まず浸水した電気自動車を特定し、構造物や他の車両、可燃物から少なくとも50フィート(約15メートル)離れた場所に移動させることを強調している。

NHTSAが米国消防庁、全米防火協会(NFPA)等と共同で作成した2014年の第一応答者向けガイダンスPDFおよび第二応答者向けガイダンスPDFは、2012年のハリケーン・サンディによる洪水で数百台のEVが海水に沈み、フィスカーEVの火災が複数発生した後に改訂されたものである。

※2014年版では、浸水したEVからの危険に関する対応ガイダンスが盛り込まれた。

また、国際消防長協会(IAFC)は、塩水浸水に伴うEVバッテリー火災への対応に関するウェビナー(登録後、無料で視聴可能)を開催している。

●EVの水没だけではない潜在的な問題
EVバッテリーの火災は、どのような場合でも、対応要員に多大な時間と資源を要する可能性がある。また、損傷したバッテリーから有毒ガスや可燃性ガスが発生し、熱暴走や再点火が予測できないため、対応者の安全性に関わるリスクもある。

EV火災に対処するためのリソースは以下のとおり。

■↓NFPAによる代替燃料車に関する対応者のためのトレーニング
※IAFCの「電気自動車火災に対する消防署の対応」。この公報には、事故発生前、事故発生中、事故発生後の対応者のためのガイダンスが含まれている。
https://www.iafc.org/docs/default-source/1haz/respondingtoelectricalvehiclefires.pdf?sfvrsn=9421650c_6

・電気自動車が火災になった場合、ガソリン車やディーゼル車よりもはるかに消火が困難である。これは、電気自動車に搭載されているリチウム電池自体が燃料となり、一つの電池パックが次の電池パックに引火する連鎖反応を起こし、大量の燃焼エネルギーによって、何時間も燃え続けるからだ。

・消防士が効果的に消火するためには、車両下部のリチウムイオン電池パッケージコンパートメントに直接、放水して冷却するため、可能な限り近づかなければならないが、エアバッグの破裂による顔面損傷や熱傷、煙は有毒ガスであり、炎の勢いは激しく、熱は超高温といった特有の危険性に加え、高電圧がかかるため、感電の恐れがあるため、空気呼吸器の面体や防毒マスクを身に付けるなど、PPEを常時着用して活動する必要があるなど消防士にとっては、かなりリスクの高い活動になる。

・ルクセンブルク消防局では、燃焼車両を水没させるためにコンテナに水を張り、クレーンで車を吊り上げて、コンテナ内に完全に水没させるという方法を取っているが、燃焼車両が複数に及んだ場合は簡単にコンテナをいくつも調達できないため、困難な活動になる。

・消火活動中に風下の隣接した車両に延焼する可能性があり、爆燃すると大量に酸素ガスが発生するため、火の勢いをさらに激しくしてしまうおそれもある。

・複数のEV車両に延焼すると、その熱量は近づけない程、超高温になり、

・フル充電されたときが最も危険で、火災が発生した場合、燃料の負荷が大きいと、長く燃え続けることになる。

・1台のEV車火災で4トン程の放水が必要。

・熱画像カメラを継続的に使用し、燃焼状態と温度など、発熱&発火部分を確認しながらピンポイントに注水すること。

・水素、メタン、エタン、エチレン、一酸化炭素、二酸化炭素などの気化物質やガス、揮発性の分解生成物は、EV周囲の局所環境に放出される。気化物質やガスが引火範囲にある場合、しかもそこに発火源がある場合は、爆燃火災が起こる。

・障害の発生したバッテリーパックで放電が起きると、ガスや気化物質が放出されて有力な引火源となる。一方、バッテリー内の物質が熱されてその温度が発火点を上回ると、物質が空気に触れた途端に自然発火する。

・ガスや気化物質が放出された場合は、激しい炎が燃え上がることの方が多いが、仮に発火前からガスや気化物質が局所的に引火範囲に溜まっていた場合は、爆燃(爆発)リスクが高くなる。

・炎上状態の車両が転がり出すことがあるため、活動開始時に輪留めを施すこと。

・もし、リチウムイオン電池ユニットが破損し、液漏れし中身が出てきた場合、LiPF6が空気中の水分と反応し、フッ酸(フッ化水素酸:酸化性の強い酸性液体)という危険な有害物質を生じるため、リチウムイオン電池ユニットが損壊していて、液漏れした場合は十分注意すること。

・フッ化水素酸 (hydrofluoric acid、HFA) が体表の数%以上の面積に浸透すると、血液中のカルシウムイオンがフッ化水素によって急速に消費されるために、血中カルシウム濃度が低下し、重篤な低カルシウム血症を引き起こして心室細動を起こし死亡することもあるため、電気自動車火災防御活動中は活動終了まで、PPEを常に着用すること。

・また、エアバッグの破裂時の飛散物による顔面や眼球損傷なども発生しやすいため面体着用を忘れないこと。

・EV車火災時の白煙は水蒸気では無く、強毒性のある有毒ガスであることを前提に活動隊員の空気呼吸器着用を始め、皮膚への曝露を予防し、風下側の警戒区域も設定すること。

・大量の白煙が吹き出した場合は爆発の危険も近づいているため、閉じ込め者などが居なければ、活動隊員は一旦、飛散物による負傷を予防するために思い切って避難する判断を行うこと。

・複数の電気自動車火災が発生した場合は、大量の有毒ガスが発生するため、空気呼吸器がいくつあっても足りない状態になるが、その場合は、消防隊員の安全を配慮し、風向きや風力を考えた上で、数十m離れた場所に放水体制を取ること。

・風上側の地域住民に換気扇や換気口を閉じて目張りし、空調機も止めて、ドアや窓などのすべての開口部を閉じることを自治体や警察など関係機関とともに迅速に十分、周知広報し、自然に消えるまで有毒ガスによる健康影響に配慮すること。

■↓車両別消火戦術無料ダウンロード
https://www.nfpa.org/Training-and-Events/By-topic/Alternative-Fuel-Vehicle-Safety-Training/Emergency-Response-Guides

■↓
ウェビナーでは電気自動車の製造過程を含め、リチウムイオン電池の製造、貯蔵、保管施設での火災事例と火災防御戦術も紹介している。
https://www.bigmarker.com/FireChiefs/Response-to-Electrical-Vehicle-EVs-Battery-Incidents-After-Hurricane-Incident

https://local12.com/news/nation-world/ev-fires-are-tough-to-fight-and-pose-new-hazards-inside-the-race-to-get-responders-ready

https://www.ncdoi.com/osfm/rpd/pt/documents/coursework/ev_safetytraining/ev%20efg%20classroom%20edition.pdf

車内にある安全ベントプラグからバッテリーパックに水を注入できたのは、300°C以上あったパックの温度を50°C以下までうまく 冷却できてからだった。

実験の際に記録した温度データを見るとよく分かりますが、バッテリーパッ クへの放水をやめると、バッテリー内部の温度はまたすぐに約 100°Cまで上がり、そこで横ばいになった。

このデータから、 放水した水が蒸発することで温度上昇が抑えられていたであろうこと、また、バッテリーに蓄えられている電気化学エネルギー が熱として放出されきるまで、一定間隔で放水を続ける必要があることが分かる。

リチウムイオンバッテリーパックは複数のセルで構成されているため、中の部品を直接冷却することが難しく、いつまでも熱を保つことができるという点が消火活動の主な懸念事項になるのは間違いない。

ファイヤーブランケットによる窒息消火

燃えている車両に大きなファイヤーブランケットを被せ るという鎮火方法もある。ブランケットを被せることで、炎を閉じ込めて空気を遮断して窒息消火する、もしくは、そこまでは難しくても せめて消火用の水が届くまでは火の勢いを抑えるといったことが可能になる。

急性曝露ガイドライン濃度 (AEGL) 

Hydrogen fluoride (7664-39-3)

フッ化水素

http://www.nihs.go.jp/hse/chem-info/aegl/agj/ag_Hydrogen_fluoride.pdf

【EV車等リチウムイオン電池火災対応策】

●世界の電気自動車製造メーカーのリチウムイオン電池火災対応策としては、下記が取り組まれている。

①車体外部からバッテリーコンパートメント内の火災を消火できる注水口を設ける。

②温度センサー付き自動消火設備を付けて、ドライバーにいち早く、車外避難を伝えたり、発火しないように部分的な初期冷却や消火を行う。

③リチウムイオン電池に変わる電池を開発する。

④リチウムイオン電池火災に効果的なF500を用いた自動、または、手動で消火できる仕組みを全EV車に標準化する。※F500消火器を車載してもバッテリーケースに直接、噴射できなければ消火することは不可能であるため、もし、F500消火器を車載する場合は車体に消火口を付けて、パイプを伝って、直接、薬剤が燃焼部分に届く必要がある。

■↓F-500 Portable Fire Extinguishers

https://www.johnsoncontrols.com/…/uki20092001_marine_f…

⑤消火タープによる消火

https://vehiclefireblanket.com/…/FAQ-Car-Fire-Blanket.pdf

・重さ:28kg 大きさ:6x8m 消火時間:約20分 価格:約30万円(為替により変動)

 使用回数:1回限り(理由は有毒ガスにより汚染し、熱により劣化するため)

#EV車等リチウムイオン電池火災対応策

ただ、EV車等の火災から消防士を助けるための教育はほとんど行われていない。

今後、EV車等の販売促進されることで、リチウムイオン電池火災出動は増え続けることは間違いないが、日本全国、また、世界中の消防士達が、具体的に安全配慮を行って、健康影響を予防しながら、活動することを願う。

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