テロ等ハイブリッド標的型暴力事件におけるレスキュー機動隊(Rescue Task Force : RTF/警察、消防、救急医療サービス等)の統合との具体的なテロ対策と現場フォーメーションについて
〜東京オリンピックなどの大規模イベントにおける具体的なテロ対策とは〜
はじめに
公衆安全機関で一番出動回数が多いといわれる消防の救急隊や救助隊にとっては、危険度・緊急度・脅威度の高い事件というのは目新しくはないが、近年、世界的に警察機動隊との現場フォーメーションが必要な「テロ対策等ハイブリッド標的型暴力事件※」の発生率および複雑度が上昇し続けている。
また、世界で起こり続けているテロ活動は、テロ組織の力を誇示するための社会暴力や殺害行為を目的にする即発型がほとんどであり、過去において、一般的だった、身代金や入獄中の仲間を釈放するなどの交渉型はあまり、行われなくなった。
単独犯の攻撃から、テロ対策等ハイブリッド標的型暴力にわたる事件は、公衆安全機関の任務に大きな課題をもたらしている。そして、以下のような(但し、この限りではない)潜在的脅威で特徴づけられている。
●単独または複数人によるテロ犯行で、犯人はある程度のトレーニングを積んでおり、犯行に関する知識もある。自爆して死ぬことすら本望である。
●軍事的なテロ戦法を使い、周到に計画された犯行で、効率的なコミュニケーション手段を持ち、実行犯以外の人物やテロ組織が遠隔でテロの実行調整を行っている場合が多い。
●複合能力を持つ、高速銃弾テロ、爆発的破砕武器を使用したテロ。
●除染が必要となる危険物質テロ、毒性物質を使用したテロ。
●テロ等の被害を拡大させるため、そして計画通りの反応を引き出し、対応を複雑化させるために火災や爆発を起こすテロ。
●ファーストレスポンダー(先着隊)に対し、意図的に二次的な攻撃をしかけ、社会性のあるプロパガンダを図るテロ。
●犯人(テロ実行者)が意図的に作り出した複雑な状況、もしくは救助隊員の能力や数に限りがあることが原因で生じる複雑かつ厳しいテロ。
●多くの一般人の死傷者と先着隊(消防と警察)の殉職者を同時に出すために下調べして仕掛けられた爆弾や仕掛けがあるテロ。
※テロ等ハイブリッド標的型暴力(HTV: Hybrid Targeted Violence)という言葉は、従来型の武器や戦術を組み合わせて使い、多角的かつ組織的なアプローチで、特定の人々を傷つけたり殺害するため、意図的に武力行使するテロとして定義されている。
同マニュアルはアメリカ国 関係機関委員会(InterAgency Board)が委託しているテロ対策ワーキンググループ(軍事専門家と緊急マネージメント、EMS、国土安全保障、消防、警察、警察関係機関のコンサルタント)によって作成されてものを参考にし、消防と警察が統合して現場対応すべきハイブリッド標的型暴力テロ事件の対処法をまとめたものである。
1、消防と警察に求められる新しい融合テロ対応戦略
単独犯によるテロ攻撃は、相対的には大して複雑ではなく、その犯行時間は約5分から15分と短いケースが多いことに対して、テロ等ハイブリッド標的型暴力事件は、複数人で組織されるテロリストグループが入念に考え、被災動線を下見し、周到に準備したテロ行動であるため、任務にあたる危険度も高く、消防と警察の各先着隊は、幅広いタイプの武器や小さな部隊を組織的に使う犯行に対応しなくてはならない。
そのため、警察、消防、DMATなどの緊急医療サービスの従来の任務や責任の境界線を越え臨機応変に対応できる、より複雑な戦略と先読みした詰め将棋的な【レスキュー機動フォーメーション】が必要となる。
近年、テロリストが用いる武器や戦略、武装内容が進化するとともに、対応側のリスクの形も変わり、リスクの度合いも高まる中、新しいテロ対応の枠組みと複数の機関が、より深く連携して任務にあたることが、すべての公衆安全分野において求められている。
予測不能で混沌状態を引き起こす恐れがある流動的な事件では、従来の縦割りで「ストーブの煙突」のような単一機関でのテロ対応は、非効率的であるだけでなく危険となるばかりか、予想以上に被災者と殉職者を出す大きなテロ惨事となることすらある。
国際的な大規模イベントにおけるテロにかかわらず、脅威度の高い事件に対応するには、すべての機関が担当する領域を根本的に変える必要がある。つまり、各分野がそれぞれの法第一条の目的と任務に境界線を引かず、継ぎ目なく他の分野と連携して融合的な活動を行わなければならない。
テロ等緊急対応機関の現場活動員が、横のつながりを持たず、それぞれの間に合わせの訓練を基に、場当たり的なテロ対応行動をとると壊滅的な失敗に終わる恐れがある。
戦略プランと連携体制は確固としたものでなければならず、相互運用できる言語と手順が存在しなければならない。また、このような事件に備えてのミーティングは幹部だけの出席ではなく、消防でいう小隊長、警察でいう警視庁機動隊機能別部隊分隊長など、日々の現場を熟知している者たちの機関の壁を越えた定期合同テロ対応訓練も必要だ。
2、テロ等ハイブリッド標的型暴力事件対応委員会の設置が必要
テロ等ハイブリッド標的型暴力事件における警察、消防、救急医療サービスの統合分野を越えた連携体制で対応する新しい枠組みを導入する際は、任務遂行上の課題、史実・慣習的な課題、政治・行政的な課題がある。
慣習的に、警察、消防の先着隊としてのそれぞれの任務は、他の行政機関に頼らない独立したものであると考えている。
司法管轄、機関同士のライバル関係、「縄張り争い」の多くにおいて(平等で健康的な関係なところもあるが、多くはない)、様々な公衆安全団体が、予算やコミュニティでの認知度、または長く受け継がれたプライドをめぐり競争関係にある。
標的型で脅威度の高いテロ攻撃が発生した場合、いわば砂に書かれた任務の境界線は意味を持たない。消防、警察が迅速に連携して対応することが成功の鍵と言えよう。
つまり、脅威を鎮静化し、命を助けるため、1つのチームとして動くことが必要なのだ。その際、エゴは捨て、統合への必要性、責任は上位下達(トップダウン)で伝えられるべきである。
また、各機関のリーダー達は、その役割、能力、そして他の機関の本質的な力量を理解しておかなくてはならない。
消防、警察の各先着隊は、各自の従来の役割をどのように変えることができるかを認識し、トレーニング、対応、危険度の低減活動を連携しておこなうことが必要である。
統合的な緊急サービス対応のコンセプトを実践するための最初の手順は、「警察機動隊が組むバリケードによって護衛されたウォーム・ゾーン(準危険区域)での救急隊による負傷者ケア」がテロ発生の初動期活動であり、具体的な救急救助体形を組むチームは「レスキュー機動部隊(RTF)」と呼ばれている。
このコンセプトでは、迅速に現場にアクセスし、状況を安定させ、負傷者を救出するため、警察、消防で構成されている統合チームが、統合された命令系統下で活動する。
3、具体的なレスキュー機動部隊のテロ対応活動について
用語の説明:
コールドゾーン:医師レベルでの応急救護ができる安全な場所で救急車による搬送体勢がとれる場所
ウォームゾーン:レスキュー機動隊(Rescue Task Force : RTFの活動エリア
ホットゾーン:銃撃戦や爆発範囲、生物・化学テロなどにより、ほぼ確実に被災するエリア
共通装備:防弾ヘルメット、防弾ベスト、ニーパッド、放たれてすぐの銃弾(摂氏100から200度)を触れることができる手袋、感染予防用ディスポ手袋(1人30ペア)、ゴーグル、止血帯(1人3本以上)、マスクなど
施設:要救助者選別所、応急救護所、医療救護所、現場対策本部、メディア対応所、移動資材提供所(搬送カート)
①ウォームゾーンの迅速な確保と拡大
テロ発災後、多くの人命を救助するためにはウォームゾーンを作ることが第一優先される。
そのためには、直近警察官が消防隊と同じく、出動要請から約10分程度で現場に到着し、活動開始する必要がある。
直近警察官がテロリストの攻撃をある程度沈静化させ、ウォームゾーンを拡大しながら、自力避難できる軽傷者、中等症者を安全に誘導し、重傷者に対しては応急救護と搬送活動を行う。
さらに、後着の銃器対策部隊や緊急時対応部隊(Emergency Response Team, ERT)によるバックアップによって、コールドゾーンを拡大していき、同時に複合テロ対策として、2次的な仕掛け爆弾などの捜索や処置を行う。
なお、軽傷者、中等症者が重傷者に処置を行っている救急隊員の妨げにならないようにウォームゾーンの中央をできるだけ自力避難させる。
②テロ等ハイブリッド標的型暴力事件対応基本フォーメーション
警察機動隊、消防救助隊と救急隊で構成されるレスキュー機動部隊は、戦闘用機動隊員、護衛用機動隊員、救護搬送用救助隊員、救急処置を行う救急救命士、資材調達要員によって構成され、先着したそれぞれの隊が、その時点で十分に安全な場所となる掩体(えんたい)を選択後、速やかにそれぞれの活動に必要な装備を持って集結し、レスキュー活動を開始する。
※掩体とは、敵から守る設備のこと。
ほとんどの場合において、現場到着は消防隊が早いが、コールドゾーンで無い限り、その活動は避難誘導と情報収集と関係機関への提供にとどめ、重傷者と思われる負傷者が倒れていたとしてもウォームゾーンへの侵入は避ける。
a.対象物内のレスキュー機動部隊フォーメーション
テロリストが対象物内で後退した際には、1列の進入フォーメーション、先頭から武装警察官1名、救急隊員2名、武装警察官1名、救助隊員2名で救急救助活動を行い。先頭の武装警察官1名は進入方向の安全確保に努め、負傷した要救助者発見ごとに救急隊員2名によりトリアージ、及び、応急処置と搬送指示、後部の武装警察官に護衛されながら救助隊員2名による要救助者の運び出しを行う。
b.対象物外のレスキュー機動部隊フォーメーション
テロリストの人数や攻撃環境や範囲などによってもレスキュー機動部隊のフォーメーションは変化するが、基本的には、戦闘用機動隊員3名、護衛用機動隊員3名、搬送用救助隊員2名、救急処置を行う救急救命士2名、資材調達要員2名が1チームとなり、8方位のテロ発生方向から優先的に活動開始する。
対象物外フォーメーションには装甲車、消防車などをバリケードとしてテロリストの活動エリアに対して平行に移動&配置し、多数の重傷者が倒れている場所から直近の応急救護所のバリケードとして使う。
・護衛用機動隊員3名が持つ盾(ライオットシールド)とバリケードが作るセーフティーゾーンとを常に長方形を保ちながら、救急救命士2名が視認によるトリアージを行い、搬送用救助隊員2名とともに重傷者の多いところへ移動し、要救助者の救助と救急処置にあたる。
・搬送用救助隊員は、長方形の中央、縦長の動線間で要救助者を搬送する。
・救急隊員による応急処置はテロ現場の特性から、多くの重傷者を救出するため、爆症や銃創による大出血重症患者の止血帯や駆血帯を用いた血液コントロール、酸素投与を行いながらの心肺蘇生法など、迅速に病院搬送できるまでの処置にとどめる。
※搬送用救助隊員は、できるだけ、救急救命士の資格と経験がある救助隊員、そして、救急処置を行う救急救命士は救助隊経験者が人選されることで、さらに負傷者の救命率を向上させ、レスキュー機動部隊の安全性も増す。
③テロ等ハイブリッド標的型暴力事件対応応用フォーメーション
テロリストが火を放った場合や多数の場所に時限爆弾を仕掛けて場合など、2次的な被災状況と必要性に応じて、レスキュー機動部隊に消火隊、爆弾検知&処理班、自衛隊が加わる。
なお、レスキュー機動部隊の相互コミュニケーション、災害対策本部との交信は、防災相互通信用無線(150MHzと400MHz)で行うか、災害時優先通信付きの携帯電話を使用する。
※防災相互通信用無線とは、大規模災害に備え、 災害現場において、消防、警察、自衛隊、海上保安庁等の防災関係機関の間で情報を交換して、防災活動を円滑に進めるため、防災相互通信用無線が準備されている。
4、レスキュー機動部隊の枠組み
近年、テロ発災など緊急時の初期対応が必要な脅威の状況は絶え間なく変化し、脅威度の高い事件では銃撃や爆発による負傷率が高くなっていることから、従来の「脅威度の高い事件に対する一般の緊急医療の枠組み」は、明らかに適切ではなくなってきていた。
特に迅速に事態介入する場合の枠組みは、まず、最初に現場に到着した警察官が戦術的な任務を負う仕組みが望ましい。
また、現場に最初に到着した警察官が、所属している部門に関わらず、迅速にレスキュー機動部隊チームを編成し、シンプルかつ一般的な戦術で、その場の脅威を取り除くための行動を取ることがテロ初動期対応として、最も有効である。
5、医療対応を通じたテロ被害者の生存率の向上
2015年11月下旬、SAMU(緊急医療援助組織)は今後のテロによる生存率を向上させることを目的に、パリ同時多発テロでの負傷者データを検証した。その結果として、銃撃&自爆テロによる死亡者の90%は、現場での医療ケアを十分に受けられずに死亡していたことが分かった。
死亡者の多くは、負傷して30分以内に死亡していたが、負傷してから数時間後に死亡するケースもみられた。
また、このデータにより、テロ発生現場で死亡した人たちのうち、少なくとも15%は、負傷時または、負傷直後であれば簡単に治療できたであろう以下の3つの外傷が死亡原因だと分かった:
(1)四肢からの大量出血
(2)緊張性気胸
(3)気道閉塞
アメリカでも、次々に起こっているテロ事件による負傷者データを検証したところ、やはり、銃創や爆症による負傷者は30分以内に現場での医療的ケアが必要であることがわかった。
その結果、アメリカの各州では現場救急隊や救助隊、警察隊、保安官向けの戦術的戦闘による傷害ケア (Tactical Combat Casualty Care (TCCC))と呼ばれるテロ現場での医療ケア・プロトコルを導入した。
■↓Tactical Combat Casualty Care (TCCC)
http://www.cs.amedd.army.mil/borden/book/ccc/uclachp3.pdf
これにより、テロ発生時、医療ケア従事者が、戦術活動と医療活動の優先度のバランスをとれるようにすると同時に、テロによる死亡原因のうち、現場で最善の治療を施していれば救命できるケースを見極め、対応できるようにした。
標準的な病院搬送前治療様式では、主に鈍的外傷を対象としている一方で、TCCC(戦術的戦闘による傷害ケア)では、戦術行動が続き、避難までの時間も長引き、状況も複雑化する中での貫通性外傷を第一に考えている。
TCCCをベースに作成したTECCガイドラインは、一般医療環境と任務遂行環境という特殊な側面も説明しており、証拠に基づいた共同調査を通して、定期的に進化、更新されている。
ここ4年間で、脅威度の高い事件に対応するTECC医療ガイドラインが運用できるようになり、アメリカ全土において機関ごとの対応やテロ対応トレーニング・プログラムに適用されてきた。
更に銃乱射/大量殺害事件や類似のHTV事件で負傷した人々の生存率を上げるため、戦略構築やガイダンスをおこなっている、複数の国内委員会、専門機関、そして意見が一致する州/民間グループ等が、TECCガイドラインを緊急対応任務に盛り込むことを推奨した。
TECCについては、国際消防士連合、国際消防長協会、米国都市消防フォーラム、ハートフォード合意グループ、U.S.消防局、州緊急マネージメント機関のガイダンスや同意および意見報告書に記載されている。
6、医療救助活動および救助機動部隊の任務調整に関するコンセプト
タイミング良く、効果的で、効率的な状況緩和、対処、レスキュー活動には、ナショナル・インシデント・マネージメント・システム(NIMS)(米国事件管理システム)と統一命令系統を使うことが必要である。
これにより、現場にいる複数の機関や部門を調整し、必要な機能をうまく管理し、それぞれの機関が効果的に計画的なコミュニケーションをとることができる。
このようなテロ等HTV事件では、通常、警察が現場を指揮する義務があるとされているが、統合された命令系統が、意思決定および人員展開の調整をおこなう。
テロ等暴力のリスクを抑え込むためには、新しい活動の枠組みが公衆安全部門すべてに受け入れられなくてはならない。
初めに現場に到着する警察官は、迅速に緊急展開チームを構成し続けなくてはならない。立ち入ることはできても、安全が確保されていない場所に消防(救急・救助)部隊を配備する時は、安全に任務を遂行できるよう警察機関が調整しなくてはならない。
TECC(脅威度の高い事件での医療原則)を使い、組織化されたチームで負傷した被害者を治療し、救助する。この関連機関合同の医療レスキュー・チームには、特別に訓練を受けた警察の機動隊員や戦術的医療従事者を入れるのではなく、最初に到着した警察官と消防隊員を入れるべきである。なぜなら、出動要請から現場到着までに時間を要する部隊を待っていては救命率の向上は望めないからである。
そして、このチームの全員が 戦術行動と適切な防護装備についての基本を理解している必要がある。
NIMSでは機動隊を「特定の使命またはニーズをサポートするために召集した人員をあらゆる形で連携させたもの」と定義している。この定義は、統合医療/レスキュー活動をおこなうレスキュー機動隊 (Rescue Task Force : RTF)の新しい枠組みにも適用できるし、適用すべきである。
元々の形として、RTFは2人の警察巡査と最初に現場に到着した消防隊員が1つのチームを迅速に作ることになっている。しかし、RTFという言葉は、この元々の形に限定されてはいない。医療面での安定化と迅速な救出 (例:護衛されたウォーム・ゾーン(準危険区域)ケア、ウォーム・コリドー(準危険歩廊区域)ケア、防護されたアイランド・ケアなど)を目的とした警察、消防の組み合わせであれば、どのような組み合わせでもRTFと呼ぶことができる。
RTFのコンセプトで重要な要素は、すべての警察官が適切なテロ対応トレーニングを受け、継続的にテロに特化した警察力を維持することだ。
レスキュー手順、医療従事者との連絡、ニーズの把握方法、そして可能であれば統合医療レスキュー・チームが活動を展開する前の初期段階で負傷者に安定した医療を受けさせることを、このテロ対応トレーニングに入れておくべきである。
TECCの初期手順において、警察の人員をトレーニングすることで、チームの安全性を高めるだけでなく、治療可能な死因を取り除くこともできる。
しかし、あくまでも暴力を抑止することが警察が優先すべき任務であり、初期段階での負傷者ケアに重点を置くことが優先されたり、本来の任務が手薄になってはならない。
暴力に対処したら、警察は被害者のケアをおこなっている消防(救急隊員)のために臨機応変に動くことができる。
医療レスキュー活動を関連機関で調整することで、警察の人員が本来の法執行機関の任務である安全確保と捜査を引き続きおこないつつも、医療アセスメント、迅速な救出、トリアージ/整列に手を貸し、その後、専門的な教育を受け、経験も積んでいる消防および医療専門家にそれまでの任務を引き継ぐことができる。
警察と消防の対応に関して、現在、最良とされているモデルでは、事件後、最初の数分で、RTFを合同で作ることになっている。
これにより、武装警備した警察部隊にガードされながら、救急隊員が現場の比較的安全な地区に入ることができる。この RTFモデルには、以下のような利点がある。
●救急隊員は患者を移動させるための各種装備を持っており、トレーニングも受けている。 これにより、限られた条件下で、致命傷を負った患者を迅速に搬送できる(例: 装備を持たない4人の救助者よりも、特別にデザインされた救出装備を持つ2人の救助者のほうが、早く脊髄を損傷した患者を動かすことができる)。
●医療トレーニングを受けた救急救命士は、患者の評価を一貫しておこなうことができ、重大な体内損傷のわずかなサインにも気づくことができる。これにより、負傷状態の安定を図り、防ぐことができる死亡原因を取り除くことができる。
●救急隊員は、最良の受け入れ施設と搬送方法を決定し、現場から救出した患者のうち、重傷度の高い人を見極め、優先し、信頼のおける外科的治療をうけさせることができる。それと同時に、現場および搬送中にしっかりとした医療ケア・プロセスを続けることができる。
7、救急隊員のリスク
武器や盾を持たない救急隊員が、脅威度の高い現場のウォーム・ゾーン(準危険区域)で活動することに関して頻繁に議論されるのは、現場の安全が、他の事項よりも最も重要であるという点だ。
警察以外の人員が、銃乱射などのテロ現場に入る際のリスクを受け入れることは難しいと従来では思われてきた。しかし、FBIが2000年から2013年までに発生したアメリカ国内で起こった160件の銃乱射事件を分析した結果、事件の69%が5分以内で終息していることが分かった。
直接的な一番の脅威である銃撃犯は、ほとんどの場合、すぐに力を失うので、安全は確保されていないが立ち入ることができるエリアで、レスキュー機動隊の一員として救急隊員が働いても、そのリスクは通常理解されているより、はるかに低いものであると言えよう。
リスク評価と状況沈静化のストラテジーは、救命救急活動においても、当たり前のものとなっている。任務遂行のシナリオにおいて、常にリスクを鑑みた対応プロトコルを適用しているのだ。
「リスクが大きければ、多くの命を助けることができる。リスクがなければ、誰も助けられない。」という言葉は、任務にあたる際によく唱えられている言葉で、このような活動におけるリスク評価について簡潔に表したものだ。ある任務遂行のシナリオにおいて、リスクを受け入れられないと拒絶すれば、それに反して、別のリスクを受け入れることになる。
あらゆる任務遂行上のリスクに対応する時と同様に、以下のような事項を通じて、脅威度の高い事件でも、そのリスクは軽減することができる。
例えば、反省、事件検証、テロ対応トレーニング、装備、しっかりとした活動プロトコル、常に変化する事件の規模をベースとした意思決定をするため関係機関同士で調整すること、負傷者を助ける際のリスクを見極めること等が挙げられる。
8、政策立案者への推奨事項
医療レスキュー活動をおこなうため、公衆安全対応を統合する責任がある政策立案者は、関係機関や組織の代表および主要な利害関係者を集めて、この実行プロセスを始めるべきだ。
これには、選出された政府当局者、地元および地域の法執行機関、消防、救急など、各組織の代表(これらの多くは既に、このコンセプトを導入している)、政府の法的代理人、そして関係分野の統合戦略/任務プロセスに詳しい専門家1人以上が携わるべきである。このグループの立ち上げ後は、以下のような責任を持つことになる。
戦略的な統合テロ対応ポリシーとプラン/手順を策定する。
●各対応機関内での現状のテロ対応プランと手順を特定する。
○現在および今後発生する脅威への対応について、そのリスクと活動能力/キャパシティを見極める。
●対応機関の現在の最良実例を考察する。
○信頼できるソースから得た文書を参考にする。
○該当分野の専門家の助けを借りる。
● 統合テロ対応プラン/手順を策定する。
○対応機関にHTV事件について通達する。
○既存の緊急応答プランおよびガイダンスをベースにする。
○緊急マネージメント・サイクルのすべての要素を入れる(準備、プランニング、演習、トレーニング、一般人への教育)
○現状の強みと弱点を見極める。
○プランニングにおいて他部門と連携をとっていない部分、そして関連するプランで食い違いが無いかを見極める。
○役割、活動範囲、法的権限を明確に定義する。
○戦略的および戦術的な任務を調整できるよう、目的を明確化する。
○確実にNIMSに準拠させる。
○各団体のプランを、その他の団体のプランに確実に反映させる。
■共通の使命目標
■共通の用語
●装備、テロ対応トレーニング、訓練、評価に関わる資金面での要件を特定する。
統合テロ対応プラン/手順を広め、運用できるようにする。
●指揮官レベルのスタッフを教育し、職員を選出する。
○アウトリーチ(出張教育)活動および教育をおこなう。
○統一化された命令を実行する利点を強調する。
●緊急救急隊員にテロ対応トレーニングをさせる。
○統合対応プロセスについてのテロ対応概念を理解させる。
○各分野での特殊テロ対応スキルについてトレーニングや訓練をおこなう。
○各分野合同でのテロ対応トレーニングをおこなうことで、統合的に対処する。
○該当するポリシー、プラン、権限をはっきりとさせる。
●統合対応の能力に焦点をあてた国土安全保障訓練と評価プログラムガイドラインに従い、定期的にテロ対応訓練をおこなう。
●レスキュー機動隊の役割と責任を略述する。
○共通の用語とハンドシグナル(手信号)を開発する。
○各分野のトレーニングでのTECCコンセプトを組み入れる。
○適切な安全装備を特定する。
○評価する際の検討事項を決める。
●訓練や事件の後の活動再調査(after action review: AAR)を意味のある形でおこなう。
○テロ対応プランに関する対応を評価する(応答者は、プランに従ったか?)
○テロ事件を考慮に入れ、プランの有効性を評価する(このプランは役にたつか?このプランは正確に活動のニーズや要件を反映しているか?このプランが役に立った場合、どうなるか?)
○AARプロセスから収集された情報を元にプランやトレーニングの中でのギャップを見極める。
○改善プランを策定し、責任を振り分けることで、上記のギャップに対処する。
○追加プランでの改善点やニーズについて、利害関係者と話をする。
●非常事態予防宣言等の法整備:
○裁判所の令状なしでのテロ容疑者の家宅捜索
○身柄拘束(レスキュー機動部隊隊員すべてが行える)
○武器や爆発物などの危険物を押収
まとめ
約1年前の2月12日、過激派組織ダーイシュ(イスラム国)テロ組織は、英語のプロパガンダ誌「ダビク(Dabiq)」をネット上で公開し、巻頭記事で「日本人は今や、戦闘員らの標的だ」と述べた。また、昨年11月18日、英語の機関誌「ダビク(Dabiq)」の最新号をネット上で公開し、「今はすべての日本人が標的だ」と改めて警告した。理由は、アメリカ主導の連合国軍を支援しているためだとしている。
また、TATP、HMTDといった、高校生レベルの化学知識があれば薬局やスーパーで材料を入手して作れてしまう手製爆弾の製造方法を公開している。
伊勢志摩サミットまであと1ヶ月を迎え、警察、消防における日本国内での実践的なテロ対策はどの程度進んだのだろうか?
先月、2月号の近代消防に掲載された私の投稿記事「消防が備えておくべき爆発物による脅迫事態対処」がテロ対策のマニュアル作りの参考になったと伊勢志摩近隣の警察署と消防局から電話やメールをいただいたが、今からマニュアルを作って間に合うのか?事態対処訓練をする時間があるのか?と深く心配になった。
いくらマニュアルを作ったところで、実践的な活動訓練を繰り返して身につけなければ、テロ現場で隊が機能するとは思えない。
日本は、過去に大規模なハイブリッド標的型暴力事件が起こったことがほとんどないため、ここに書いたような内容を読んで、各機関が具体的に準備するなど、先読みした対応は取らない可能性が高い。しかし、一度、パリ同時多発テロのような大きなテロ事件が国内で発生し多数の死傷者が出ると急いで対策本部を設けて、計画とマニュアルを作成し、次に備えようとすることを繰り返している。
近年、国内で安全保障や危機管理に関するセミナーが増えてきているが、どれも過去に起こった事件の検証や警鐘にとどまり、「では、銃の乱射や爆弾を使ったテロ現場で活動する関係機関が具体的にどのように現場活動をするのか?」という軸で書かれたものは少ない。
テロ事件は関係者が真剣に取り組めば予防できる可能性は高い。しかし、残念ながら、公的機関の関係者たちは従来通りのテロ後の対応しか考えていないように感じる。
また、良くテレビで紹介される日本の警察や消防のテロ対策訓練を見た限りでは、「本気の訓練」ではなく、見せる訓練ばかりで作法的だと感じる。日本の訓練は、成功だけの訓練で、失敗がないことも問題である。何のための誰に向けた訓練なのかわからなくなる。
もっと実戦を見据えたチャレンジした訓練で危険をあぶり出し、想定外の展開が必要である。従来通りの希望的憶測でシナリオ通りに訓練していても、実際にテロが発生した場合には、助かる命が助からなくなる。最悪の事態を考えて、本気のテロ対応訓練をして欲しいと願う。
知らない方が多いが、国際緊急援助隊救助チームが2010年、2015年とINSARAGの評価試験を受けheavy levelの認定は受けてはいるが、各国の評価員からは、現実的訓練ではなく、つまらないと最低評価されている。これでいいのだろうか?
多くの生命が失われる前に、また、国際社会で「テロに弱い国」と呼ばれないように、もっと関係者が真剣に取り組む必要があるような気がする。
■↓国際捜索救助諮問グループ(INSARAG)
http://goo.gl/Avt2sc
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一般社団法人 日本防災教育訓練センター
代表理事 サニー 神谷
~明日をもっと安全に~
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